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「行功心解」(5) - 務令沉着

前回からの続きで、「務令沉着」の説明です。気を沈めることに努めなければいけない、ということを前回説明しました。それは、長い間努力をしないとなかなか辿り着けない境地です。ただ、がむしゃらに努力をすれば良い、というわけではありません。





蘇峰珍氏の「行功心解詳解」では、気を沈めるための前提は、「松」だと宣言をしています。今日のブログでは、この「松」とは何かを紹介します。


中国語でこの文字を書く時には、主に中国本土で使われている簡体字では「松」、台湾なので使われている繁体字では「鬆」と書かれます。発音はどちらもsōng(ソン)です。日本語で説明をする時にはどちらの漢字を使ったら良いか、迷います。なぜなら、どちらの文字も日本語に存在するからです。


「松」は日本語では通常は樹木の名称として使いますが、辞書を見ると「粗い(「鬆」の簡体字)」という意味も載っていました。「鬆」はあまり見かけはしませんが、これも常用外漢字として認識されていて、骨粗鬆症の「鬆」として使われます。


どちらの文字も日本語に存在して、どちらも「粗い」と言った意味を表すことができるのですが、「鬆」は「粗い」以外の意味を持たないので、誤解が少ないと感じます。ということで、これからは「松」ではなく、「鬆」を使うことにします。


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改めて「鬆」とは何でしょうか?私の師匠もこの単語を頻繁に使います。力をぬけ、リラックスしろ、と言った意味です。強さを求める武術として太極拳をとらえた時、「力を抜け」っていうのは強さを求めることと矛盾しているようにも感じます。通常の武術では、筋肉を鉄のように硬くして、力をつけることで相手に向かっていくトレーニングをします。太極拳は動きの柔らかさを求めていくので、「力を用いない」ことが強調されます。力を抜くことがきちんと理解できていないと、太極拳の套路をできるようになっても、外見だけの優美さに終わり、結果として太極拳体操になってしまいかねません。


そもそも「力を抜く」とか「リラックスする」ってどんなことなのでしょうか?


完全に力を抜いてしまうことではもちろんありません。そんなことをしたら武術どころか、手も上げられないし、そもそも立っていることすらできません。


ロボットのようにカクカクした動きではなく、気持ちを楽にして、のんびり動かすこと、って考える人もいるでしょう。全くの間違いではないですが、これだけだとどのような動きをするのかをあまり気にせずに、適当にゆっくり動くことも入ってしまいます。


私の「鬆」の定義は、「余分な力を使わないこと」です。最低限必要な力だけを使って動作を行うことです。仮に立っているために10の力が必要だとすると、10より多く力を使っている状態は「鬆」ではないです。逆に10より少ない力になった時は、すでに立っていられなくなるので、これも「鬆」とは呼べないでしょう。


何が余分な力なのかがわからない、どうしたらわかるのか、が次の話題です。一つの例ですが、O脚の人を例に取ります。O脚の原因の一つに体重が足の裏の外側にかかり気味で、足の外側側面の筋肉を使って立っている状態だということが考えられます。立っている状態を支えている脛には、2本の骨があります。外側にある骨は、内側のそれよりも圧倒的に細く、これを利用して立っている状態を保とうとすると、骨が十分に支えられない分、余分な筋肉の力を支えとして使う必要が生じます。


できるだけ骨で体を支える、細い骨よりは太い骨に依存するようにする、筋肉を使う場合でも、表面に近い筋肉ではなく、体の中心に近いところにある筋肉を使うようにする。こう言ったことを意識することで、余分な筋肉、余分な力を使わないで立つことができるようになります。


O脚の例のように比較的外から見てもわかりやすい例もあるのですが、自分自身の体の感覚でしかわからないものもたくさんあります。太極拳の修練の大きな目的の一つは、無駄な力がどこに入っているのかを把握して、それを減らしていくことではないかと私は思っています。そのために私が毎朝やっているのは、無極功(ただじっと立っているだけの練習)です。


余分な力を抜くこと、つまり「鬆」が気を沈めるための前提条件だと書きました。逆にいうと「鬆」を極めていくことの目的は、気を沈めること、そしてそれを内なる力(内脛)につなげていくことだということもできます。この辺りのつながりを次回のブログでは書きたいと思います。





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以心行気,務令沉着,乃能收斂入骨;以気運身,務令顺遂,乃能便利従心。精神能提得起,則無遅重之虞,所谓頂頭懸也;意气須換得霊,乃有円活之趣,所谓変動虚実也。発須沉着松静,注一方;立身須中正安舒,支撑八面。


行気如九曲之珠,無往不利;運如百錬鋼,何堅不摧?形如搏兔之,神如捕鼠之猫。静如山岳,動若江河。蓄如張弓,発似放箭。曲中求直,蓄而後発。力由脊発,步随身換。收即是放,断而復連。往復須有折叠,進退須有転換。極柔軟,然後極堅鋼。能呼吸,然後能霊活。气以直養而無害,以曲蓄而有余。心為令,気為旗,腰為纛。先求开展,後求緊凑。乃可臻于缜密矣!


又曰:先在心,後在身。腰松,気斂入骨,神舒体静。刻刻在心。切記“一動無有不動,一静無有不静。”牽動往来気貼背,斂入脊骨。内固精神,外示安逸。迈步如猫行,動如抽丝。全身意在精神,不在。在気則滞。有者無力,無者純鋼。若車輪,腰如車軸。



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