私が習ってきた呉式太極拳には、108式套路の他にもう一つ貫穿(guàn chuān グアン・チュアン)という套路があります。教室によっては、108式套路の他に、ステップ数を少なくしたもの(例えば37式)があるようですが、うちの場合は、数字がついているのは108式ひとつです。安易に数を減らして伝統的な価値を減らしたくなかったと聞いています。
さて、この貫穿が修行中に学んだことの二つ目です。「貫穿」を辞書で引くと、こんな説明がつけられています。
套路の名前の意味は、二つ目の意味に近いです。初めから最後まで貫かれている、動きが連続している套路、と言った感じです。「貫穿」ではいくつかの意味で一貫性、連続性を求められます。
一つ目は、動作が途切れないことです。どんな套路も動作を連続的に行うことは求められると思います。うちの108式套路もそうです。ロボットみたいに、途切れ途切れの套路は良しとされません。
「貫穿」はより高い連続性が求められます。始めたら最後まで動き続けます。指導を受けているとき、ちょっとでも手が止まると、「止まった」と指摘をされます。
二つ目は、円の動きをより意識することです。これも他の套路にも当てはまる要求ですが、「貫穿」の場合には、より高いレベルで求められます。より円の動きを意識することで、技の応用をより意識するようにできています。「貫穿」を学ぶと、108式套路では理解しきれなかった実際の場面での応用により思いを馳せることができます。
三つ目は、初めの動作の時に、一度しゃがんだら、最後まで腰を落とした姿勢を保ち続け、立ち上がらない、という一貫性です。
こんな三つの連続性が求めれるため、「貫穿」は108式套路よりも格段に難しいとされています。初めの二つの連続性は、108式套路できちんとできなければ、それをさらに高度なレベルで求められる「貫穿」では当然できません。三つ目の連続性は、当然体力的な基盤がしっかりしていないとやりきれません。
「貫穿」の具体的な動きの順序については、基本的には108式套路と同じです。繰り返しが省略されているので、108式套路が40分以上かかるところ、「貫穿」は15分程度で終わります。
先代の師匠は、108式套路がしっかりできていない人には、「貫穿」は教えなかったそうです。108式套路でできていないことがあれば、「貫穿」でも当然できず、同じことを教えなければいけないことになるためです。
伝統的には、まず足腰を作り、基本功を覚え、最も基本となる108式套路を学び、自分のものにしてから次のステップに進む、というのが正しいとされてきました。
最近は、常に新しいものを求める生徒さんが少なからずいるので、108式をマスターしていなくても「貫穿」を教え始めています。私自身もそうでなければ、学ぶ機会が十分にはなかったかもしれません。
108式套路をそれなりにできるようになり、「貫穿」もそれなりに学んだ今になってやっと、伝統的なやり方の価値がわかってきた気がします。自分の学校では、この辺りの匙加減をどうするか、まだ考え中です。
108式套路に関しては、初めから終わりまで9巡にわたる修正を受けました。「貫穿」に関しては、帰国までに3巡の修正が終わる予定です。十分に修正を受け切ったとは言えませんが、時間の制限がある中、仕方ないです。再度シンガポールに来た際に、継続して学びたいと思います。
そうはいっても、今日現在、シンガポールの教室で、この「貫穿」がそれなりにでもできるのは私一人。私がさった後のためにもう一人はなんとか育てようとしていますが、それぐらい価値のある、また学びとるのが難しい套路です。
そんな套路を完全な形ではないにせよ、自分のものにできたことは、108式套路に並ぶ大きな資産を得たと思っています。
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